Aは賃貸住宅(以下、「甲住宅」という。)を所有し、各部屋を賃貸に供しているところ、令和2年、X銀行から融資を受けてこの建物を全面的にリフォームした。
甲住宅には融資の担保のためX銀行の抵当権が設定された。
Bは抵当権の設定登記前から甲住宅の一室を賃借して居住しており、CとDは抵当権の設定登記後に賃借して居住している。
この事案に関する次の記述のうち、誤っているものはいくつあるか。
なお、各記述は独立しており、相互に関係しないものとする。
ア 賃借権の対抗要件は、賃借権の登記のみである。
イ Bが死亡し相続が開始した場合、相続の開始が抵当権の設定登記より後であるときは、相続人はX銀行の同意を得なければ、賃借権を同銀行に対抗することができない。
ウ AがX銀行に弁済することができず、同銀行が甲住宅の競売を申し立てた場合、Cの賃借権は差押えに優先するため、賃借権をX銀行に対抗することができる。
エ AがX銀行に弁済することができず、同銀行が甲住宅の競売を申し立てEがこれを買い受けた場合、Eは、競売開始決定前に甲住宅の部屋を賃借し使用収益を開始したDに対し敷金返還義務を負わない。
正答3
解説
正解は3です。
この問題は、抵当権と賃借権の優劣、賃借権の対抗要件を問うものです。
記述別解説の○×は、各記述そのものの正誤を示します。
Bは抵当権設定登記より前に、CとDは登記より後に賃借している点が判断の分かれ目です。
【記述別解説】
ア:× 建物賃借権の対抗要件は、登記だけではありません。
建物の引渡しを受けていれば、その後に物権を取得した者に対抗できます(借地借家法31条)。
イ:× Bは抵当権設定登記より前に引渡しを受けているので、賃借権を抵当権者に対抗できます。
相続人はその賃借権を包括的に承継するので(民法896条)、相続の時期にかかわらず対抗できます。
X銀行の同意は必要ありません。
ウ:× Cは抵当権設定登記の後に賃借しているので、賃借権は抵当権に劣後します。
そのため、競売になっても、Cは賃借権をX銀行や買受人に対抗できません。
なお、競売手続開始前から使用している賃借人には、買受けから6か月の明渡猶予があります(民法395条)。
エ:○ Dの賃借権は抵当権に対抗できないので、買受人Eは賃貸人の地位を引き継ぎません。
そのため、EはDに対して敷金返還義務を負いません。
Dは、元の貸主Aに対して敷金の返還を求めることになります。
誤っているものはア・イ・ウの3つなので、正解は3です。
【ポイント】
抵当権との優劣は、抵当権設定登記と賃借権の対抗要件(引渡し等)の先後で決まります。
明渡猶予は対抗力を与えるものではなく、明渡しまでの猶予期間を与えるだけの制度です。