次の1から4までの記述のうち、民法の規定及び下記判決文によれば、誤っているものはどれか。
(判決文) 賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。
それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。
そうすると、建物の賃貸人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、(中略)その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。
正答1
解説
正解は1です。
賃借人の原状回復義務と通常損耗に関する判決文(最判平17.12.16)の読解問題です。
判決文は、通常損耗の減価は賃料で回収されるので、賃借人に負担させるには明確な特約が必要としています。
この問題は誤っているものを選ぶので、○ が答え(誤った記述)です。
【選択肢別解説】
1:○ 誤った記述です。
判決文が賃料で回収されるとしているのは、社会通念上通常の使用をした場合に生じる通常損耗の減価だけです。
「どのように使用しても」「全て」賃料で回収しているとは述べていません。
通常の使用を超える使い方で生じた損耗は、賃借人が原状回復義務を負います。
2:× 正しい記述です。
判決文は、通常損耗を「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少」と定義しています。
3:× 正しい記述です。
判決文は、通常損耗についての原状回復義務を賃借人に負わせるのは予期しない特別の負担を課すことになるとしています。
負担範囲が契約書に明記されず口頭説明もない場合は、通常損耗補修特約が明確に合意されたとはいえません。
4:× 正しい記述です。
判決文は、賃借人に通常損耗の原状回復義務を認めるには、その旨の特約が明確に合意されていることが必要としています。
単に原状回復義務を負う旨の定めがあるだけでは、通常損耗の補修費まで支払う義務があるとはいえません。
【ポイント】
通常損耗は賃貸人負担、通常の使用を超える損耗は賃借人負担が原則です。
現行法では、通常損耗と経年変化が原状回復の対象外であることが民法621条に明文化されています。